《雑記》Finnairの札幌就航を考える

雑記
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Finnair(フィンエアー)はこのほど、2019年12月15日から翌20年3月27日まで、ヘルシンキ/新千歳線を就航させると発表しました。期間限定で週2往復の運行ですが、新千歳にとっては17年ぶりの欧州線となります。

詳細:フィンエアー、札幌12月就航 A330で週2往復(Aviation Wire)

今回のフィンエアーの施策は従来のものとは一線を画すものです。また、今後の日本の航空事情を見通すうえで重要な示唆を与えうると思いますので、少し考えてみたいと思います。

フィンエアーはこれまで日本路線の拡充を進めてきました。すでに東京(成田)、中部、大阪(関西)、福岡4空港と欧州を結んでいますが、これは欧州キャリアはもちろん、国内2大キャリアも実現できていないことです。

フィンエアーはその名の通り、北欧・フィンランドの航空会社で、拠点は首都ヘルシンキです。JALと同じワンワールドに加盟しており、日欧路線はJAL/ブリティッシュ・エアウェイズ/イベリア航空と共同事業化しています。

写真提供:@0402Worry

経済規模あるいは観光資源の観点からも、ヘルシンキがそれほど日本人にとって魅力的な地であるとは思えません。それにも関わらず、ルフトハンザやエールフランスといった並み居る欧州のメガキャリア以上に、日本路線を飛ばしています。

フィンエアーがこれほどまでに日本路線に注力し、そして成功しているのは、その地理的条件を上手く活用できた結果だと考えられます。いわゆるハブ&スポーク戦略を極めて効果的に展開している例です。

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世界地図の錯覚

我々は日常的に、世界地図というとメルカトル図法のものを思い浮かべます。メルカトル図法は一見して世界全体を把握できるという利点がある一方で、赤道から離れるにつれて縮尺が大きく変わっていくことが無視されがちです。一例を挙げれば、世界地図上でグリーンランドが非常に大きな存在感を放っているのは、実際の17倍の大きさになって表れているためです。
旅客機に乗って大陸を横断する時もそれを実感できます。東京からパリに向かう時、脳内にメルカトル図法の地図しか備えていない人はまっすぐ西に飛ぶのが最適だと考えてしまいます。中国、インドを通ってさらに地中海沿岸から北上してパリに入るルートです。しかし、現実にこのようなルートで飛行する旅客機は存在しません。なぜなら、それは最も飛行距離が長くなる、極めて非効率なルートだからです。

日本からユーラシア大陸を横断するフライトの場合、(日本海から北上するかオホーツク海から北上するかの違いはあるにせよ)シベリア上空を飛行し、スカンディナビアを抜けて欧州各都市に着陸します。それが最短ルートとなるためです。

もし感覚的にこれらのことが理解できないという場合は、メルカトル図法ではなく地球儀を使って距離を測ってみるとすぐにわかるはずです。

南極がこんなに大きいはずありません

さて、話をフィンエアーに戻します。

ヘルシンキという都市は日本から欧州に向かう場合、どのエアラインであってもその付近を飛行することになります。つまり、そこでトランジット(乗り換え)をして、欧州各都市に移動することは、極めて移動距離的ロスが少なくなります。西欧でも南欧でも、あるいは東欧であっても、ヘルシンキで乗り継ぐことはとても合理的です。

同じロジックで、じつはモスクワも我々日本人にとって欧州各都市へのゲートウェイとなる可能性を秘めています。あくまでも地図上の話ではありますが。

日本から欧州のいくつかの都市には直行便が就航していますが、十分と言えるでしょうか。英国はロンドンのみですし、イタリアはローマとミラノだけです。ドイツは首都であるベルリンへ-受け入れ態勢が整っていないこともあり-直行便が存在しません。近年、訪日需要の高まりもありマドリードへ就航したり、あるいは経済成長によって競争力が生まれてきたポーランドからの直行便が就航するという状況が生まれつつありますが、広い欧州をカバーするにはあまりにもさみしい状況です。

かつてはJALが世界有数のメガキャリアとして欧州各地に就航していました。その後、経営悪化により路線網は大幅に縮小されてしまいましたが、仮にJALがそのまま飛ばし続けたとしても、やはり直行便だけで欧州をカバーするのは不可能でしょう。

ビジネスもレジャーも、時間の経過とともに多様化していきます。大都市一極集中ではなくなった今、日本人の渡航先はかつてと比べて極めて多彩になっていると考えられます。

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欧州のゲートウェイとして

ふたたびフィンエアーに話を戻します。

フィンエアーはこの点をうまくフォローしています。巨大市場である日本から一度ヘルシンキに集客し、そこから欧州各地に送客しています。共同事業を展開するJALもこの戦略に乗っかりました。現在、成田からヘルシンキへ自社便を飛ばしています。かつての自前主義、大鑑巨砲主義的なJALだったら、まず考えられない就航先です。

ヘルシンキ・ヴァンター空港(写真提供:@0402Worry

これまでもフィンエアーは役所浩二を起用した「Mr.ヨーロッパ」というキャラクターで、その戦略を訴求してきました。曰く日本から一番近いヨーロッパ、と。

確かにヘルシンキは近いです。東京からパリ行きのフライトに乗っていると、到着前の食事が配られるタイミングがちょうど北欧のあたりです。マドリード行きならば、もしかしたら機内の照明は落ちているかもしれません。長時間飛行機に乗ることは、体を動かさずとも体力を消耗します。その点でも、やはり日本と欧州のハブとしてのヘルシンキの優位性は非常に強いものがあると考えられます。

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アウトバウンドからインバウンドへ

そこで今回の札幌就航について考えてみます。

従来、フィンエアーの戦略は日本人にとって欧州の玄関になることでした。しかし、今回の新千歳線は逆の発想でアプローチをしています。つまり、欧州から日本へ送客するための路線と位置付けられています。
もちろん、日本への観光客が急拡大している昨今、既存の日本路線でも欧州発の搭乗客は増加していたことは想像に難くありません。しかしながら、札幌線に関しては完全に(日本人視点での)インバウンド需要を取り込むことに主眼を置いています。

北海道は世界的にも条件の優れたウィンタースポーツの場です。整備されたスキー場や交通インフラ、質の高い雪など、これまでも多くの外国人観光客が北海道の雪を求めてやってきました。とりわけ、季節が逆転する南半球、オーストラリアからの訪日客の動向については、しばしば話題になったほどです。

そこに目を付けたフィンエアーは欧州からウィンタースポーツを目的とした客を北海道に送り込むことを考えました。従来、欧州から北海道に行くためには一度東京まで飛んで(場合によってはソウル)、そこから再び北上して北の大地に降りる必要がありました。これは明らかな無駄が生じています。フィンエアーの札幌線の成否は、まさに欧州で北海道をどれだけ売り込めるかにかかっていると言えるでしょう。

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北海道ハブ構想

その反対に、(日本人視点での)アウトバウンド需要も見込んでいるのでしょうか。少々難しいと考えられます。まず、北海道から欧州に向かう需要がそれほど大きいとは考えられないためです。

今から17年前までは、KLMオランダ航空が新千歳空港に就航していました。おそらく、これは(日本人視点での)アウトバウント需要を獲得することを目的に設定された路線だと考えられます。札幌は100万人の人口を抱えており、渡欧需要はあると判断したのでしょう。ところが、残念ながらその目論見は外れたようです。時を経たとはいえ、その状況が一変したとも思えません。

ただ、KLMの目論見には惜しい点もあったように思います。北海道は日本版ヘルシンキになる可能性を秘めていました。先述の通り、日本から欧州に向かう場合、北上してシベリアを通過します。つまり、北海道に欧州・北米行きのハブ拠点を開設し、そこに日本各地からの乗客を一度集めて、各都市に送客するという発想です。

この北海道ハブ構想には様々な課題があります。たとえば積雪です。世界を見ても、札幌程の豪雪地帯に100万人都市はありません。それゆえに見落とされがちですが、新千歳は非常に厳しい自然環境に置かれています。高頻度で大型旅客機が離着陸するハブ拠点としては不向きです。また、隣接する自衛隊基地との兼ね合いも当然出てきます。

写真提供:@0402Worry

一大拠点とならずとも、フィンエアー1社のアジアにおけるハブ拠点となれる可能性はあるでしょうか。これも厳しいと言わざるをえません。その場合、共同事業を展開するJALによって日本各地から新千歳に一度集客をして、フィンエアーのフライトに搭乗させることになります。

しかしフィンエアーの目的地はヘルシンキです。最終目的をヘルシンキに設定する乗客が多いとはとても思えません。結局、もう一度ヘルシンキで乗り継がなければいけません。距離的なロスは削減できたとしても、時間的なロスが増大します。また、乗継回数が増えれば増えるほど、乗継失敗のリスクも増えていきます。

つまるところ、やはりフィンエアーの札幌線はインバウンド需要に対する施策となります。訪日需要の高まりは間違いなく日本の空の状況を変化させつつあります。アウトバウンド思考で考えていると、今後の日本の空模様を見通すのは難しそうです。

Special thanks : @0402Worry (写真提供)

おわり

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