《雑記》ANAのA380導入を考える ③これから何が起こるのか

雑記
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前回

 前回まで、ANAのA380導入の経緯を見てきました。最後に最も重要な、ANAのA380導入で何が起こるのかを考えてみたいと思います。

 なお、多分に主観的な見解が含まれますので、その点ご留意ください。

 ANAは手薄だったリゾート路線を強化するため、ホノルル路線にA380を投入すると発表しました。就航は2019年5月24日。FLYING HONU(フライング・ホヌ=空飛ぶウミガメ)と名付けられた特殊なペイントを施したA380が東京とホノルルを結ぶことになります。まずは週3往復、そして2号機投入後の7月1以降は週10往復、総二階建ての巨大旅客機が芸能人から一般庶民までを常夏の島に送り届けることになります。

 さて、まずはハワイ路線の歴史を見てみましょう。

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JALが開拓したリゾート路線

 日本とハワイを結ぶ定期便は今から60年以上前に始まっています。1954年2月、日本航空が太平洋を横断するサンフランシスコ線を開設しました。この日本の航空会社による戦後初の国際定期便は36人乗りのDC-6Bで運行されました。羽田空港を離陸して、給油のためにウェーキー島を経由、ホノルルを経てサンフランシスコに着陸しました。所要時間は18時間。週2便の運航でした。その中継地点がホノルルだったのです。

 それから10年後の1964年4月、日本人の海外旅行が自由化されました。自由化から1週間後に出発した7泊9日の戦後初のツアー費用は36万4千円でした。この当時、大卒初任給が約2万円だったことを考えると、自由化されたとはいえ一般庶民にはまだまだ手が出せない高嶺の花だったことが分かります。

 この年、日本交通公社(現在のJTB)がハワイに支店を開設、翌1965年にはJALが日本初の海外パッケージツアーブランドである「ジャルパック」の発売を始めました。日本人の海外旅行自由化その時から、JALとJTBが開拓してきた日本人にとってのリゾート地、それがハワイでした。

 1984年、JALはホノルルマラソンへの協賛を始めます。以降、この大会の正式名称は「JALホノルルマラソン」となっています。JALはスポンサーとしてだけではなく、社員の自主参加によるボランティア活動や、複数の都市から多数の日本人参加者を運ぶチャーター便の運航など、多岐にわたる運営協力を行っています。

 ハワイへの日本人旅行者は年々増加し1997年には年間約222万人にも達しました。

 ハワイ路線はJALが開拓してきた、屈指のリゾート路線と言えます。

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ANAのDNA

 さて、この記事の主題はJALではなくANAです。そのANAの基本的な行動原理は「JAL憎し」です。彼らにとっての至上命題はJALを叩き潰すことで、あらゆる投資や事業拡大はその手段にすぎません。

 彼らが長いこと、スカイトラックス社から5つ星評価受けていることを「日本で唯一の5スターエアライン」と表現していたことからも、よくわかります。ちなみに、2018年にJALが同じ5つ星に認定されて以降は「日本で唯一6年連続5スターに認定されているエアライン」と表現しています。

 個人的に、これ以上みっともない謳い文句は存在しないのではないかと思います。ANAは今や誰もが認める日本一の航空会社です。世界中のメガキャリアとしのぎを削って、さらなる高みに向かって飛翔してほしい。一人の日本人として強くそう感じます。

 しかし、彼らはJALと比べて自分たちがいかに優れているか、ということにしか興味がないようです。

 JALが会社更生法の適用を申請して上場廃止となった2010年、ANAは「きたえた翼は、強い。」という企業CMを公開しました。

 「たった2機のヘリコプターからの出発。『純』民間航空会社としてのそのささやかなスタートに比べ、私たちの胸はなんと大きな夢を抱えていたことでしょう」と始まるこのCM、どう解釈してもJALに「ザマーミロ」と言っているとしか考えられません。器の小ささをこれ以上なく大々的に宣言しているCMと言っても過言ではないでしょう。

 もちろん、ANAがこのようなメンタリティを持つに至った理由も察せられます。

 『純』民間航空会社として出発したものの、下田沖墜落事故後にJALの支援を受けたこと。出資を受けただけではなく、JALから役員も受け入れました

 そしてなにより、長いこと国際定期便への進出を夢見ながらも、航空憲法と呼ばれる「45/47体制」によって、JALだけが世界の空を飛んでいた悔しさ。

 日本の航空行政は戦後の短くない期間、ひたすらにJALを世界で伍して戦える航空会社に育て上げることに重きを置いてきました。そしてそれは、ANAに鬱屈した感情をDNAレべルまで刻み込ませるのに、十分な時間でもあったのでしょう。

 JALが様々な問題を抱えて、自滅するかのように経営破綻への道をひた走っていた2000年代でも、DNAに刻み込まれたその感情は一切消えることがなかったのだと思います。そしてそれは前回説明した通りに実に筋が悪い文章を国交省に出させるに至ります。
 
 私は同業他社をライバル視することがいけないとは思いません。ただ、その相手なしに自分を語ることができないような盲目的な競争心ーあるいはコンプレックスと言ってもいいのかもしれませんーは、その会社にとっても、あるいは乗客にとっても、あるいは公共交通機関である以上その社会にとっても、決して有益だとは思えないのです。

 「日本で唯一の5スターエアライン」にしても「『純』民間航空会社」にしても、確かにそれは一面の事実ではあるでしょうが、結局はJALという言葉を使わずに自らを表現できないという、二番手根性の現れだと思います。

 こういった感情をANAの幹部、あるいは社員が持つことも自然なことかもしれません。しかし、それを乗客にも共有させようという姿勢が、わたしがこの会社を好きになれない最大の理由です。

 繰り返しますが、ANAは今や誰もが認める日本を代表するエアラインです。つまらない過去に引きずられてほしくありません。

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ハワイ路線を焦土にせよ

 さて、ANAのDNAに刻み込まれた行動原理がわかったところで、A380に話を戻します。スカイマークを手兵に加える代わりに、エアバスと契約してしまったA380ですが、これをどう使うかANAの担当者は実に悩んだことだと思います。B787を国際線の主軸として戦略を立ててきたANAにとって、どの路線にA380投入しても供給過剰になることは火を見るよりも明らかです。

 そしてDNAに染み付いた感情が一つの結論を導き出したのでしょう。JALが作ってきたホノルル路線を焦土にしてやろう、と。死なば諸共、メガンテを放ってでもJALを叩き潰したい。それがA380のホノルル路線投入の目的ではないでしょうか。

 現在、日本とハワイ(ホノルル/コナ)を結ぶ路線は
①JAL=ハワイアン連合
・成田
 JAL:767-300(週21便)777-200(週7便)787-9(週7便)
 ハワイアン:A330-200(週7便)
・羽田
 ハワイアン:A330-200(10)
・関西
 JAL:787-8(週7便)777-200(週7便)
 ハワイアン:A330-200(週7便)
・中部
 JAL:787-9(週7便)
・新千歳
 ハワイアン:A330-200(週3便)

②ANA(含むエアージャパン)とユナイテッド航空(スターアライアンス)
・成田
 ANA:787-9(週14便)
 ユナイテッド:777(週7便)
・羽田
 ANA:787-9(週7便)

③その他(スカイチーム)
・成田
 デルタ:767-300WL(週7便)
 大韓航空:A330-300(7)
・関西
 デルタ:767-300WL(週6便)
・中部
 デルタ:767-300WL(週5便)

となっています。

これを供給座席数に換算すると

J AL=ハワイアン連合:21183(JAL:12565/ハワイアン:8618)
スターアライアンス:6713(ANA:5166/ユナイテッド:1547)
スカイチーム:5702(デルタ:3798/大韓:1904)

となります。季節によって機材が変わったり、座席配置が異なったりするので100%正確とは言い難いですが、概数としては使えると思います。

 このようにしてみると、ハワイ路線においてJAL=ハワイアン連合の供給座席は全体の63%にものぼります。JALだけでも全体の37%です。
 一方、スターアライアンスは合計でも20%、ANAだけでは全体の15%にすぎません。

 ここで7月1日以降、ANAの成田-ホノルル線の10便がA380(510席)に変わったと想定して計算してみます。すると

スターアライアンス:9353(ANA:7806/ユナイテッド:1547)

となり、アライアンスでの供給座席数は全体の26%にまで上昇します。ANAだけでも全体の22%になります。一方、JALは全体の35%にシェアを落とします。ANAのA380投入によって総供給座席は単純計算で7%増加します。

 一見すると大きくない数字に見えますが、供給が7%上昇することは市場に大きなインパクトをもたらすでしょう。加えて、ANAはファーストクラスを35万円からと設定しています。JALは一部の期間を除いてハワイ路線にファーストクラスを設定していません。比較は難しいですが、欧州行きのファーストクラスが120万円を超えることを考えると、ANAの価格設定は相当な競争力を持っていると思われます。

 ANAはこのほかにも期間限定でエコノミーとプレミアムエコノミーに限り、空席がある場合にはマイルで特典航空券を発券できるキャンペーンを実施しています。従来、特典航空券用の座席はあらかじめ数が決められていましたが、期間・クラス限定とはいえ、その制限を撤廃します。様々な施策で大量付与してきたマイル負債を一気に償却してしまいたいという思惑もあるのでしょう。

 逆に言えば、そういったキャンペーンを展開しなければ、あの超巨大旅客機の座席を埋めることは難しいのでしょう。当面、ANAはA380を空気輸送機にしないためにも価格攻勢を強めてくることが予想されます。そうなれば、ハワイ路線の王者として君臨するJALもただでは済みません。これまで以上の厳しい価格競争に巻き込まれて、伝統のリゾート路線の収益性が悪化していくことが容易に想像できます。

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どうせ痛い目に遭うのなら

 ANAは思い通りにならないスカイマークを手に入れた代わりに押し付けられたA380を使って、これまでJALが長い年月をかけて耕してきたハワイ路線を焦土化して、A380の痛みをJALにも味合わせてやろうという魂胆なのではないでしょうか。どうせどの路線に入れてもANAが痛い目に遭うのは明らかです。ならば、憎くて憎くて憎くて仕方がないJALも道連れにしてやろう。

 ANAの行動原理を考えたとき、このA380のハワイ路線投入は極めて合理的かつ最適な解だったのでしょう。

おわり

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